医療法人のM&Aで最も注意すべき論点の一つが、「持分あり医療法人の出資持分の取扱い」です。
旧制度の医療法人では「持分」を医師等が保有し、株式会社の株式と同様に「財産権」が認められるため、譲渡時の評価額や税務が極めて重要になります。本コラムでは、持分あり医療法人の評価方法、譲渡益課税の仕組み、実務上の注意点をわかりやすく整理します。
1.持分あり医療法人とは?
持分あり医療法人は、旧制度で設立された医療法人で、
社員が出資した金額=出資持分として財産権を保有
する構造になっています。
その結果:
- 退社時に「払い戻し請求」が可能
- 社員=所有者として議決権も保有
- 持分の多寡により法人価値の請求権が発生
という特徴があります。
現在は原則「持分なし医療法人」への移行が推奨されていますが、旧医療法人の多くがまだ“持分あり”のまま残っています。
2.持分の評価方法
持分の評価には「相続税評価方式」が広く用いられます。
一般的に以下の要素で算出されます。
- 純資産価額方式(資産−負債)
- 類似業種比準方式(診療所としての収益・利益)
- 配当還元方式(法人税法上の擬似的配当)※特殊ケース
このうち医療法人は配当を行わないため、
純資産価額が重視される傾向があります。
例えば
・預金
・医療機器
・土地建物(所有の場合)
・未収金
から、
・借入金
・未払費用
などを控除します。
注意点として、医療法人の評価は一般会社の株式と異なり、
事業価値(のれん)を含めないケースが多い点です。
3.譲渡益課税はどうなる?
出資持分は「資産の譲渡」と扱われます。
そのため売却時には、
- 譲渡価額 − 出資時の取得価額(元本) = 譲渡所得
が課税対象となります。
- 課税率
- 長期(5年以上保有):約20%
- 短期(5年以内):約39%
※給与・事業所得とは切り離された分離課税
- 注意点
古い医療法人ほど、「当時の出資金額(取得価額)が不明」なケースがあります。
この場合は実務的に
“払込額ゼロ”扱い → 譲渡価額ほぼ全額が課税対象
となることもあり、売手に非常に重い負担となります。
4.実務で起こる問題点と対応策
(1)社員同意の取り付け
持分移転=社員総会の特別決議が必要。
反対者がいると成立しないこともあります。
(2)払い戻し請求リスク
売手が退社することで、法人に対し「財産の返還」を求められる可能性があります。
これを契約でどう封じるかは極めて重要。
(3)退社=解散リスク
社員が2名しかいない医療法人などで、1名退社すると解散事由に該当する場合があります。
(4)理事長交代との整合性
持分移転 → 社員交代 → 理事変更
の順で行わなければ、保健所・厚生局で不備が出ることがあります。
5.M&Aでの実務判断
買手としては以下を必ずチェックします。
- 出資持分の評価額
- 取得価額(売手の元本)
- 譲渡益課税額(売手の手取り)
- 社員構成(退社=解散の可能性)
- 払戻請求リスクの排除(契約条項で封じる)
売手としても、自分の手取り額がどうなるかを事前に税務シミュレーションしておくことが不可欠です。
まとめ
持分あり医療法人は、
「持分評価」+「譲渡益課税」+「社員構成(ガバナンス)」
の3点を丁寧に整理しなければ、売手にも買手にも大きなリスクが生じます。
特に評価額と課税額の差が大きいため、
「売却額は高いのに手取りは少ない」
という事態が発生しやすい点に注意が必要です。
M&Aを進める際は、事前の評価と税務分析、社員構成の整理、そして解散リスクの把握が必須です。
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