はじめに
医療法人に「基金」という制度があることは多くの院長が知っていますが、“基金が全部返ってくる” と誤解しているケースは非常に多く、M&Aの現場でも大きなトラブルの原因になります。
特に、持分なし医療法人では「基金=唯一の財産的価値」と考えられることもあり、承継スキームの根幹に直結します。
本コラムでは、基金拠出型医療法人の返還条件・法律構造・承継への影響を体系的に整理します。
1.基金とは?
基金とは、医療法人が事業運営・設備投資などのために社員や第三者から拠出された資金で、以下の特徴があります。
- 医療法人の負債ではなく 特別な性質
- 出資のように財産権を与えるものではない
- 定款・基金拠出契約で返還条件を明記する
- 基本財産に組み込むことも可能
つまり 「返すかどうかは契約次第」 という非常に重要なポイントがあります。
2.基金が“返還される”ための条件
基金は、以下の3パターンのいずれかです。
① 返還条項あり(返還○・条件付き)
例:
- 解散時に返還
- 財務余力がある時に返還
- 理事会決議で返還可能
- 期限の定めがある基金(○年後返還)
→ 最もM&Aで利用されるパターン
② 返還条項なし(返還×)
定款や基金契約に返還の記載がなければ、
基金は返還できない
(使われたまま法人内に残る)
③ 基本財産化されている(返還××)
建物や設備購入のための基金
→ 基本財産に組み込まれると返還不可
3.承継における基金の位置づけ
(1)持分なし法人では“譲渡対価の代わり”になる
持分なし法人には株式も出資持分もないため、
基金返還+営業権(のれん)
という形で対価スキームを組むのが一般的です。
例:
基金1,000万円(返還)+営業権1,500万円=譲渡価額2,500万円
(2)基金返還ができない場合の代替策
返還不可の基金しかない法人は、以下の調整が必要です。
- 営業権を大きめに設定して売手側を補填
- 買手側は財務余力を確認(返還可否が変動する)
- 定款変更・基金契約変更で返還条項を追加(要法務確認)
(3)基金返還は税務上“非課税”
基金返還は出資金の返金扱いであり、
売手側には課税されません。
これは株式譲渡などと比べて非常に有利なポイントです。
4.M&Aで発生しやすいトラブル
① “基金は全部返ると思っていた”問題
返還条項がなかった
→ 実は1円も返らない
→ 営業権を追加で交渉する羽目に
(実務で非常に多い)
② 基金の返還可否が法人の財務状況で変動
返還条項があっても、
「財務余力があるときに返還」とされているケースがほとんど
→ 返せる状態でなければ“返還不可”
→ 返還できるように資金調達が必要になる場合も
③ 理事会・社員総会決議が必要
基金返還は多くの場合、
- 理事会
- 社員総会
のどちらかの決議が必要。
ガバナンス設計によっては返還が進まないことも。
5.承継時のチェックポイント(買手・売手共通)
✓ 基金契約書の有無、条項の確認
(返還条件をまず確認)
✓ 基金が基本財産かどうかの判定
(返還不可の最大原因)
✓ 財務状態(返還に耐えうるか)
(資金がなければ返還不能)
✓ 営業権の設定
(基金返還を補完するバランス調整)
✓ 理事会・社員総会の決議スケジュール
(承継スケジュールに直結)
まとめ
基金拠出型医療法人は、
「返る基金」と「返らない基金」を正しく分類することが成功のカギです。
承継スキームは
- 基金返還
- 営業権
- ガバナンス手続き
の三位一体で設計する必要があります。
基金は“財産権の代替”となる非常に重要な要素であり、
ここを誤ると最後の交渉で破綻しやすいため慎重な整理が求められます。
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