■ 経営不振の歯科医院が直面する現実
昨今、競争激化や人材不足、設備投資の負担などにより、経営が悪化している歯科医院が少なくありません。長年にわたり地域医療を支えてきた医院でも、患者数の減少や保険診療の限界から、キャッシュフローが悪化し、赤字経営に陥るケースが増えています。
こうした状況下で、「廃院」や「閉業」という選択肢に迫られる前に、M&Aによる事業再生という選択肢を検討する動きが出ています。
■ M&Aは“廃業回避”と“信用回復”の手段となる
経営難の歯科医院にとって、M&Aは単なる「売却」ではなく、事業の存続と信頼の再構築を可能にする戦略です。
- 借入金や家賃負担に苦しんでいる医院であっても、買手が事業価値（患者基盤・スタッフ・場所など）に着目すれば、無償譲渡や低廉譲渡によるM&Aが成立することもあります。
- スタッフの雇用や患者の通院継続が可能になることで、地域医療への責任も果たせるという社会的意義も大きいです。
- また、現オーナーが再スタート（個人開業や勤務医転向など）を切りやすい環境が整うというメリットもあります。
■ 事業再生型M&Aの流れと実務的なポイント
経営難に陥った歯科医院がM&Aを活用するには、以下のようなステップが必要です：
- 現状把握（財務・人事・契約状況など）
- 支援専門家によるM&A戦略の構築
- 買手候補の探索と交渉
- 債務・リース・賃貸契約等の整理
- 譲渡契約の締結と移行サポート
この際、債務の扱い（譲渡後に誰が負担するか）やリース・賃貸契約の名義変更・解除条件について、専門家と緻密に設計することが不可欠です。
また、**金融機関との連携（リスケジュール・債権放棄の交渉など）**や、保証人の解除・変更など、法務・財務面での丁寧な手続きが求められます。
■ M&A後の再建・ブランド再生の工夫
M&Aにより経営主体が変わったとしても、患者や地域住民の信頼が続くとは限りません。そのため、買手側では次のような施策が重要です：
- 医院名や内装のリニューアルによる「刷新感」の演出
- 院長交代の丁寧な案内と継続診療の安心感の提供
- スタッフ継続雇用による“いつもの安心感”の維持
- 診療内容やサービスの改善による患者満足度の向上
単なる「継承」ではなく、“経営改善型M&A”としての体制づくりが再出発の鍵となります。
■ M&A支援者に求められる役割
このような事業再生型のM&Aでは、歯科業界の特性と再建スキームの両方に通じた支援者の存在が成功の成否を分けます。
- 財務と法務の両面に強く、現場（医院運営）の理解があること
- 譲渡側・譲受側・金融機関・リース会社・不動産オーナーなど多面的な利害調整ができること
- 譲渡後の再生支援（経営管理、人材支援、集患施策など）も一貫して行える体制があること
こうした支援があることで、“閉じるしかなかった医院”を、“もう一度動き出す医院”へと変える道がひらかれます。
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